番外編 ふうたお童話 赤い魚

            すこし すこし昔

  空がたくさん見える お庭のあるお屋敷がありました

 

そのお屋敷のご主人は魚が好きで

数本の水槽を持っていました

 

その水槽の一つに

赤い頭で白い魚のラミーノーズと

オレンジ色に黒のラインのラスボラが

綺麗な群で泳いでいました

 

柔らかい緑の水草と龍のような形の流木

白い群れとオレンジの群れが

時折交ざりながらゆったりとラインを作っていました

 

ある日  お屋敷のご主人が新しい仲間を

酸素で膨らませたビニール袋に入れて連れてきました

 

プラチナアカヒレ  

オレンジより濃い朱色に近い色で

何よりヒレの先っぽに

光る緑の小さい斑点がついていて

水槽の照明で夜光塗料のように光るのでした

 

わたしはとくべつよ

うつくしいすがたをみて

すてきないろでしょう

いっぴきでじゅうぶんきれいよ

 

 

プラチナアカヒレ達はそれぞれバラバラに

好きな方に泳ぎ回り

水槽の上層部を占領していました

 

水槽をみる時間が心の癒しのご主人は

後悔し始めました

 

アカヒレのせいで水槽のまとまった雰囲気が無くなってしまった

 

どうしよう

 

網で掬ってしまおうか

 

 

次の日    プラチナアカヒレは  

お庭の池に捨てられました

 

ラミーノーズとラスボラの水槽は

また綺麗な群泳だけになりました

 

                    おしまい

 

滝枝の場合 その1

   占い〼

緑色の扉のその店は

アーケード街の真ん中辺りにある。

隣は薬屋と花屋で、建物はほとんど隙間なく、ひっついている。

火事が起きたら、きっと全部焼けてしまうのだろう。

 

間口は狭いが奥が深い、いわゆる 鰻の寝床と呼ばれる家屋である。

裏側も立て込んでいて、

どうやってこんなにひっついて建てることができたのかわからない。

 

薬屋の裏手には お地蔵様があって、水仙が供えてある。

お地蔵様の前を通る細い抜け道を行くと

薬屋の庭が見える。その庭にある小さい温室の後ろの

薄っぺらい壁に片開きの小さい門扉がつけてある

               ふうたお

表札の代わりのような木の板に書かれている。

              店の名だ。

 

ふうたおの裏口は滅多に開かない。

鍵が掛けられているわけではないが。 

                                  つづく

 

 

 

 

 

 

 

1話の3 日菜子の場合 [占いカルテ]

   「お仕事を変わりたいんですね、

       今のお仕事は、何をされてるのかしら。

       あ、ここに生まれた時の苗字とお名前書いてくださいね。

       それとお誕生日も。

        そうそう、今の名前じゃなく生まれた時のです」

 

     スーパーでレジ打ちの仕事をしていて、人間関係で少し

   悩んでいると話しながら、名前と誕生日を書いた。

 

 「10日生まれね

 数秘術で占って見ます。

うん、     持って生まれた資質っていうか、

意義のある事を成し遂げる強さがあるね。

自己表現の場として、仕事するといい。

  あぁ 裏と表と言うか、物事の良い面悪い面を

両方とも見て、決断に手間取るかも。

 

見知らぬ環境や、

押しの強い人と一緒にいると

自信を失いやすいかな。

 

大切なのは、人と自分を比べない事ね。

比較し続けている限り自分らしさは見えてこないわ。

 

仕事は何がしたいの?

 

あんまり売り込むものでは

無い方が合うかも。

1対1のお仕事がいいかしら。

 

エステとか、ああ、そうね、

いいんじゃない、ネイル」

 

 

日菜子は、側にいると自分の元気がなくなってしまう

そんな先輩から離れた方がいいんだと実感した。

 

比べてもしょうがないのに

比べて心が沈んでいた

 

自分が劣っているわけではないし、

誰かに言われたわけでもなかった

 

比べる事で

自分を肯定しようとしていた事に気がついた

 

「ありがとうございました」

日菜子は、なんだか娘や主人に早く会いたくなっていた。

そんな気持ちになった自分に頬が緩んで

少し優しくなれた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

1話の2 日菜子の場合 続き

  そこはアーケードの商店街の丁度真ん中あたり。

 最初見たときは、何屋さんなのかしらと思っただけだった。

何度目か通った時に気がついた。

           占い〼

「占い? へぇ、なんだか面白そう。」

いつか何かあったら、の その日が今日になった。

 

濃い緑色の扉を思い切って押してみた。

カランカランと呼び鈴がなった。

 

「はぁい」

魔女みたいな人が出てくるかとおもっていたが、

薄いオレンジ色の口紅をつけた、色の白い女性だった。

 

         四畳半ぐらいの四角い部屋

         真ん中に緑色のベルベットのクロスがかけられたテーブル

         椅子にはワインレッドと緑色のクッション

 

 勧められて、椅子に深く腰掛けながら占ってもらいたいことを告げた。

 

              明日に続く

 

 

         

                            

 

 

 

 

一話 の1 日菜子の場合

   「疲れちゃったな」

従業員割引で買ったコロッケとキャベツ、

牛乳が入ったレジ袋を

自転車のカゴに入れながら日菜子は呟いた。

 

今日の美美のお迎えは実家の母に頼んである。

少し寄り道してみようかと思ったら

急に気分が良くなった。

「しまった、牛乳買わなきゃ良かった。

一時間ぐらいなら腐らないわよね。」

もう5時半ぐらいなのだがまだ明るい。

少しずつ日が長くなってきてるのも

寄り道の気分を上げた。

 

線路沿いの道を

自宅と逆の方角に。

夕方の空に青とオレンジを混ぜた色が広がって行くのを

何年かぶりの立ちこぎで追いかける。

 

目的地は 駅のアーケード街の中

扉だけの入り口

入るのに 少し度胸がいる様な

そんな場所          

                              続く